香りの歴史


ギリシア神話によると、香りはもともと神だけに与えられた秘密だったのですが、

アフロディーテ(ビーナス)の下女のミスによって、人間に知られてしまい、

以来、人間は香料のとりこになったといいます。

香りの魔力とでもいうのでしょうか。

香りには習慣性があります。

この香りの魔力にとりつかれてしまったのが古代ギリシア人たちでした。

ギリシア文明がその絶頂期に達するころ、

香料の熱狂的ブームが起こりましたが、その熱の入れ様は尋常ではありませんでした。

衣服や体にしみこませるなどはごく当たり前で、体の部分部分に違う香料を香料をすりこんでいました。

ワインにも没薬を入れるなど、食べ物や飲み物のすべてに香料を使いました。

また、風呂に香料を入れて浸かる人もいました。

さらには、飼っている犬や馬にまで香料をすりつけていた人もいたといいます。

こうした市民のあまりにも行き過ぎた熱狂ぶりに、

政治家であり詩人であったギリシア7賢人の一人ソロンは、

紀元前594年にアテネ市内での香料販売を禁止する令を出したほどです。

哲学者ソクラテスも、こうした世相を批判する一文を発表しています。

しかしそれでもギリシアの香料熱は一向に収まることはなかったといいます。

こうした香料熱は、人々を香料の産地へと誘い、

また一国の王を世界史を変える大遠征に向かわせたのでした。

ローマ帝国の皇帝ネロ(在位54〜68年)は、

「暴君」というありがたくない称号を後世の人々から与えられた君主ですが、

彼の香料好きも大変なものだったそうです。

客を迎えるときの華々しい香りの演出でも知ることができます。

たとえば、「黄金の家」といわれた宮殿の食堂には、

客に香油をふかけるためのシャワーのような管を壁にしかけてあったといいますし、

香りの強いバラの花が客にふりかけられるようなしかけもあったといいます。

また、部屋にはバラの花を絨毯のように敷いていたといいます。

さらに、宴会のときには、香油をたっぷりつけた鳥を飛ばし、

香りが部屋中に満ちるようにしていました。